このように考えていませんか?
ちょっと聞き慣れない言葉ですよね。
しかし、民法改正で追加された重要な概念なのです。
そこで、この記事では債務譲渡の概要から詳細まで詳しく解説しています。
ぜひ参考にしてみてください。
- 債務譲渡は債務の内容を変えずに債務を移転する行為
- 併存的債務譲渡とは債務者の債務を残しつつ、引受人が同じ内容の債務を負担する行為
- 免責的債務譲渡は債務者の債務はなくなり、引受人が債務者の債務を肩代わりする行為
- 債務譲渡、債権譲渡については2020年に改正民法が施行された
- 債務譲渡がこれまで明文化されていなかったのは債権者の利益を損なう可能性などがあったため
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事業/会社売却の相手を探す!目次
債務譲渡とは?
債務譲渡とは、債務の内容を変えずに債務を移転する行為のことです。
たとえば、A社がB社に対して1,000万円の借金があり、この借金を代わりにC社に負担してもらうことになった場合、これを債務譲渡と呼びます。
債務譲渡はこれまでの民法に規定がありませんでしたが、過去の判例や学説から、債務を譲渡するのは可能だという見解が一般的でした。
その上、法律上規定されていなかったものの、債務譲渡と言える取引は一般的に行われてきました。
ちなみに、債務譲渡には以下の2つの種類があります。
- 併存的債務譲渡
債務者の債務を残しつつ、引受人が同じ内容の債務を負担するというもの - 免責的債務譲渡
債務者の債務が免除され、引受人が債務者の債務を肩代わりするというもの
この2種類の債務譲渡については次の見出しで詳しく解説します。
この見出しでは、以下のそれぞれの概念との違いについて詳しく見ていきましょう。
債務引受との違い
債務引受はほぼ債務譲渡と同じ言葉だと考えて問題ありません。
債務引受は債務譲渡と同じように、債務の内容を変えずに債務を移転する行為を指します。
違いがあるとすれば、債務譲渡は債務を移転する前の債務者の立場から見た言葉ということです。
一方、債務引受は債務を移転した先の立場から見た言葉になります。
たとえば、A社の債務をB社に移転した場合、A社から見ればB社に債務を譲渡したことになりますが、B社から見ればA社の債務を引き受けたことになります。
債権譲渡との違い
債権譲渡とは、債権の内容を変えずに債権を移転する行為のことです。
債務譲渡とはちょうど反対の概念になります。
債務譲渡が何らかの負債を第三者に移転するのに対して、債権譲渡では何らかの権利を第三者に移転します。
上で、債務譲渡はこれまで明文化されてこなかったと説明しましたが、債権譲渡はこれまでの民法でも規定がありました。
債務譲渡が明文化されてこなかったにも関わらず債権譲渡の規定があった理由はいくつか考えられますが、一番大きいのは債権が債務よりも移転しやすいことでしょう。
債権は誰が持っていても、基本的になにか不都合が生じることはありません。
一方、債務の場合は移転されると債務者の支払い能力が変わったりするため、債権者の利益が損なわれる可能性があるのです。
事業/会社売却の相手を探す!併存的債務譲渡とは?
併存的債務譲渡とは、債務者の債務を残しつつ、引受人が同じ内容の債務を負担するというものです。
身近な例で言うと、借金に連帯保証人を設定するようなものですね。
併存的債務譲渡について、以下の項目に分けて詳しく見ていきましょう。
成立要件
併存的債務譲渡の成立要件は以下のとおりです。
- 債権者・債務者・引受人が3者で契約を取り交わすこと
- 債権者・引受人が契約を取り交わすこと(470条2項)
※この場合、債務者の意思に反する契約を行っても問題ありません - 引受人・債務者が契約を取り交わすこと(470条3項前段)
※この場合、効力を発生させるためには債権者の承諾が必要です
3つの成立要件のうちどれかを満たしていれば、併存的債務譲渡を成立させることができます。
つまり、債権者と債務者が契約する場合以外の場合には、併存的債務譲渡を成立させられることになります。
効力発生時期
併存的債務譲渡の効力発生時期は、以下の成立要件別に以下のとおりになっています。
- 債権者・債務者・引受人が3者で契約を取り交わすこと
→効力は契約時に発生します - 債権者・引受人が契約を取り交わすこと(470条2項)
→効力は契約時に発生します - 引受人・債務者が契約を取り交わすこと(470条3項前段)
→効力は債権者が承諾した時点で発生します
③の場合には他の場合と効力発生時期が異なるので注意しましょう。
効果①:元の債務者・引受人は連帯債務を負う
併存的債務譲渡の効果としてまず挙げられるのは、債務者と引受人が連帯債務を負うことです。
債務者と引受人のどちらにも、債務を債権者に返済する義務が生じます(470条1項)。
そのため、債権者は債務者にも引受人にも返済を請求できます。
ちなみに、法改正では相対的効力の原則が徹底され、債務者や引受人の片方に生じた事由の効力が原則としてもう片方に及ばないようになりました。
効果②:元の債務者が主張できた抗弁を引受人も主張できる
併存的債務譲渡の効果としては、元の債務者が主張できた抗弁を引受人も主張できるというものもあります。
併存的債務譲渡では、債務者と引受人は同じ立場に立つことになるからです。
たとえば、債務者が債権者に対して債務の履行を拒んだ場合、引受人も同様に債務の履行を拒むことができます。
ちなみに、債務者と引受人が契約して併存的債務譲渡が成立した場合、引受人は債務者に対して主張できる抗弁を、債権者にも主張できます。
事業/会社売却の相手を探す!免責的債務譲渡とは?
免責的債務譲渡とは、債務者の債務はなくなり、引受人が債務者の債務を肩代わりする行為です。
免責的債務譲渡では、債務が完全に引受人に移転されるのです。
免責的債務譲渡について、以下の項目に分けて詳しく見ていきましょう。
成立要件
免責的債務譲渡の成立要件は以下のとおりです。
- 債権者・債務者・引受人が3者で契約を取り交わすこと
- 債権者・引受人が契約を取り交わすこと(470条2項)
※この場合、債務者の意思に反する契約を行っても問題ありません - 引受人・債務者が契約を取り交わすこと(470条3項前段)
※この場合、効力を発生させるためには債権者の承諾が必要です
免責的債務譲渡の成立要件は併存的債務譲渡と変わらないことがわかります。
効力発生時期
免責的債務譲渡の効力発生時期は成立要件別に以下のとおりになっています。
- 債権者・債務者・引受人が3者で契約を取り交わすこと
→効力は契約時に発生します - 債権者・引受人が契約を取り交わすこと(470条2項)
→効力は債権者が債務者に契約をしたことを通知した時点で発生します
※引受人が債務者に通知しても効力は発生しません - 引受人・債務者が契約を取り交わすこと(470条3項前段)
→効力は債権者の承諾が引受人に到達した時に発生します
効力発生時期は併存的債務譲渡と大きく異なることがわかります。
③について、債権者が免責的債務譲渡について承諾する前に債権が差し押さえられた場合、その後に債権者が承諾しても、差し押さえた時点では免責的債務譲渡の効力は生じていません。
そのため、この場合、差し押さえを取りやめる必要はありません。
効果①:元の債務者は免責される
免責的債務譲渡の効果としてまず挙げられるのは、元の債務者は免責されるということです。
債務者は免責的債務譲渡の効力が発生した後は、債務を返済しなくて良くなります。
そして、免責的債務譲渡が行われた後、引受人が債務をすべて返した場合、原則として引受人は債務者に代わりに返済した債務の弁済を要求することはできません。
効果②:もともと設定されていた担保・保証を移転できる
免責的債務譲渡の効果としては、もともと設定されていた担保や保証を移転できることも挙げられます。
つまり、これまで債務者に対して求めていた担保や保証を、引受人に用意してもらうことができるのです。
これは、担保や保証が移転できなければ債権者の権利が損なわれてしまうため、当然と言えるでしょう。
ちなみに、担保や保証は成立要件別に以下のタイミングか、それより前に移さなければなりません。
- 債権者・債務者・引受人が3者で契約を取り交わすこと
→契約した時 - 債権者・引受人が契約を取り交わすこと(470条2項)
→契約した時 - 引受人・債務者が契約を取り交わすこと(470条3項前段)
→債権者承諾した時・もしくはその前
債務譲渡・債権譲渡の法改正について
債務譲渡・債権譲渡に関する民法は2020年に改正法が施行されました。
法改正について、以下の項目に分けて詳しく見ていきましょう。
改正の目的
改正の目的としてまず挙げられるのは、これまで明文化されていなかった債務譲渡について明文化し、成立要件や効力発生時期などを明らかにすることです。
債務譲渡はこれまで判例の上では存在する概念でしたが、法律の中には初めて登場することになりました。
また、改正の目的としては、債権譲渡による資金調達のニーズに答えるためです。
企業は、資金調達を行う方法として、自社が保有している債権を利用する場合があります。
具体的には、以下のような2つの方法があります。
- 真正譲渡
債権を他社に売却して資金を得る方法です。たとえば、ファクタリングというサービスでは、債権の価値から一定程度割引いた価格で債権を買い取ることで短期間で債権を現金化することができます - 譲渡担保
債権を担保にして融資を受ける方法です。この場合、返済できなくなった時には債権を引き渡して返済の代わりにすることになります。このような融資はABL(Asset Based Lending)と呼ばれています
このようなニーズに答えるため、債権譲渡に関する規定の改正が行われました。
改正前の問題点
改正前の問題点としてまず挙げられるのは、債務譲渡について明文化されていなかったことです。
債務譲渡は法律の改正前も判例上は存在する概念でしたが、法律にはなっていなかったため、成立要件や効力発生時期が明らかになっていませんでした。
この問題を解消するため、債務譲渡が改正法で明文化されることになったのです。
一方、債権譲渡については改正前の民法でもあった概念です。
しかし、改正前の債権譲渡にはいくつか制限があり、これが債権譲渡を用いた円滑な資金調達を妨げていたのです。
たとえば、その債権に債権譲渡を禁止する特約がついていた場合、その債権を譲渡しても原則として無効になっていました。
そのため、譲渡禁止特約がついた債権の譲渡を受けたり、担保にしたばかりに、債権を回収できないリスクがあり、これが債権譲渡による資金調達を阻害していました。
このような状態を改善するために、民法の改正が行われることになりました。
改正点①:譲渡制限特約付き債券の債権譲渡が原則有効に
民法の改正点として大きなもののうちひとつは、譲渡制限特約付きの債権譲渡が原則として有効になったことです。
上でも説明したとおり、従来は譲渡制限特約が付けられている場合、原則として債権譲渡は無効になっていました。
しかし、これが原則として有効になったのです。
ただ、債権譲渡を原則として有効にすると、債務者にとってはいつの間にか弁済する人が変わっているという事態が発生します。
これでは債務者の利益が守られないため、譲渡制限特約について知っていた場合などには債務の履行も拒むことができます。
ただ、履行の請求が行われた後、相当の期間が経過しても履行が行われなかった場合には、履行を拒めなくなります。
このように規定を設けることにより、改正民法では債務者と債権者の利害を調整しています。
改正点②:異議をとどめない承諾の廃止
民法の改正点のうち大きなものとしては、異議をとどめない承諾の廃止もあります。
異議をとどめない承諾とは、異議があるにもかかわらず、その異議を相手に伝えないまま承諾することです。
民法が改正される前、債務者が異議をとどめない承諾をした場合には、債権譲渡が行われた時にこれまで主張できた抗弁が主張できなくなるという規定がありました。
債権譲渡が行われただけで、このように抗弁ができなくなるというのは妥当ではないとの声から、この制度が廃止されました。
これにより、債権譲渡が行われた後も同じ抗弁を主張できるようになりました。
同じ抗弁を主張できることにより、債権譲渡に対する抵抗感が減り、より円滑に債権譲渡が行われるようになるのではないではないかと期待されています。
改正点➂:供託
民法の改正点としては、供託も挙げられます。
供託とは、金銭や有価証券などを、国の機関である供託所に預けることで、債務を支払ったのと同じ効果が得られる制度です。
債務者は債権が譲渡された後には、債務者は供託をできます。
ただし、供託をした時には、債権を譲渡した人と、債権を授受した人に通知する義務があります。
改正点④:差し押さえ
民法の改正点としては差し押さえもあります。
具体的には、譲渡制限特約で差し押さえ禁止財産を作り出すことができなくなりました。
つまり、譲渡制限特約を付けた場合も、債権が差し押さえられた場合にはその履行を拒絶したり、元に債務者に弁済を請求したりすることはできません。
改正点⑤:預金・貯金
預貯金債権の譲渡については基本的に民法改正前の解釈から変更がありません。
しかし、譲渡制限特約があっても、預貯金債権を差し押さえた債権者に対抗することはできません。
改正点⑥:将来債権の譲渡
債権譲渡について、将来発生する債権まで譲渡できることが明文化されました。
そして、将来発生する債権が実際に発生した時には、債権を譲渡された側がその債権を取得できるようになりました。
改正点⑦:相殺権
債権譲渡について、対抗要件を具備する前に取得した債権による相殺を債権譲渡が行われた先にも適用できるようになりました。
また、対抗要件を具備した後に取得した債権でも、場合によってはその債権での債務の相殺を主張できます。
このように、相殺は広く保護されるので、債務者がどのような債権を持っているかは調査の必要があるでしょう。
改正点⑧:経過措置
この改正民法には経過措置があります。
具体的には、この改正民法が施行される2020年4月1日よりも前に起こったことについては、改正前の民法が適用されます。
事業/会社売却の相手を探す!債務譲渡がこれまで明文化されていなかった3つの理由
債務譲渡はこれまでの民法には登場してこなかった概念です。
債務譲渡が明文化されていなかった理由には、主に以下の3つが挙げられます。
それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
理由①:債務者が交替すると債権者の利益を損なう可能性があるから
債務譲渡がこれまで明文化されていなかった理由としてまず挙げられるのは、債務者が交替すると債権者の権利を損なう可能性があるからです。
債権譲渡の場合、債権を持っている人が変わっても、債務者に大きな不利益があることは少ないです。
一方、債務者が交替した場合、引受人が元債務者よりも返済能力が低かった場合、債権者の利益を損なう可能性があります。
このように、債務者の交替は債権者の交替より、債権者にとって望ましくないことなのです。
理由②:債務は債権より移転させにくいから
債務譲渡が明文化されていなかった理由としては、債務が債権より移転させにくいことも挙げられます。
債権については受け取る人は多くの場合誰でも良いため、移転させるのは簡単です。
一方、債務の中には、金銭の他に、「執筆する債務」などもあります。
このような債務は他者に移転させるのが難しいという実態があります。
理由③:特殊な取引だから
債務譲渡が明文化されてこなかった理由として、特殊な取引だからという理由も挙げられます。
債権を譲渡する取引は広く行われてきたものの、債務譲渡はかなり限定的な場面でしか用いられてきませんでした。
なぜなら、引受人にとって、通常債務を受け取ることに利益がないからです。
そのため、債務譲渡を明文化する必要性が少なかったのです。
事業/会社売却の相手を探す!債務譲渡・債権譲渡の法改正の影響
債務譲渡・債権譲渡に関する法改正の影響としては主に以下の2点が挙げられます。
それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
債権譲渡を活用した資金調達が行いやすくなった
債権譲渡に関する法改正の影響としては、債権譲渡を活用した資金調達が行いやすくなったことが挙げられます。
そもそも民法が改正された目的のひとつは、債権譲渡を行いやすくすることにありました。
これまでより債権譲渡を行う時に生じていた障害が少なくなったため、これから債権譲渡を活用した資金調達は広く行われるようになるでしょう。
債務譲渡の実務への影響は限定的
一方、債務譲渡の実務への影響は限定的と言えるでしょう。
債務譲渡の規定については、これまで判例や学説などで論じられてきた内容を法律として明文化しただけだからです。
これまでと実務で行うことに、大きな変わりはないでしょう。
事業/会社売却の相手を探す!債務譲渡の関連語
債務譲渡に似た言葉としては主に以下の3つが挙げられます。
それぞれの関連語について詳しく見ていきましょう。
履行引受
履行引受とは、第三者が債務者に対して、特定の債務の履行を約束することです。
たとえば、AさんがBさんから100万円を借りているとします。
この100万円を、CさんはAさんの代わりに支払ってくれると約束しました。
これが履行引受です。
履行引受の特徴は、債務譲渡と違って、BさんはAさんに100万円の支払いを請求できますが、Cさんには請求できないという点です。
契約引受
契約引受とは、将来発生する債権、債務などをすべて移転することです。
契約上の地位の移転とも呼びます。
債務譲渡に限らず、契約した全ての事柄が移転されます。
債務者の交替による更改
債務者の交替による更改は、債務者が何らかの事情で交替した時により新たな人に債務を負担してもらうことです。
債務譲渡と違い、債権は一度消滅して新たに発生します。
そのため、内容は同じでも、同一の債務というわけではありません。
事業/会社売却の相手を探す!債務譲渡のまとめ
債務譲渡とは、債務の内容を変えずに債務を移転する行為のことです。
債務譲渡には、併存的債務譲渡と免責的債務譲渡の2つの種類があります。
この記事では、それぞれについて、以下の項目に分けて詳しく説明しました。
また、債務譲渡・債権譲渡について、主な改正点をまとめると以下のようになります。
債務譲渡がこれまで明文化されていなかった理由としては、主に以下の3つが挙げられます。
債務譲渡・債権譲渡の法改正の影響には主に以下の2つが挙げられます。
債務譲渡の関連語には主に以下の3つが挙げられます。