相続をする時には、亡くなった方に借金があったという場合もあるかもしれません。
そのような時に、「本当に借金まで背負わなければいけないのか」と感じる方もいるかもしれません。
安心してください、亡くなった方の借金を背負わなくて良い方法はあります。
この記事では、借金相続の対処法から具体的な手順まで詳しく解説しています。
- 相続の対象になる借金は借入金など
- 借金がある人から相続する時の対処法は単純承認、相続放棄など
- 相続放棄の注意点は資産も相続できなくなることなど
- 限定承認の注意点は相続全員で行う必要があることなど
目次
借金の相続とは?
借金の相続とは、亡くなった方がしていた借金まで含めて相続することです。
人が亡くなった時には、相続人が財産を引き継ぐことになりますが、亡くなった方はマイナスの財産、つまり借金をしていることもあります。
そのような時には、下で説明するように、マイナスの財産を相続しないようにもできます。
まずはどのような借金が相続の対象になるのか、という点から順番に見ていきましょう。
相続の対象になる4つの借金
相続の対象になる借金は主に以下の4つです。
借入金
借入金とはいわゆる借金で、金融機関などから借りたお金のことです。
借金は相続の対象になります。
相続では一身専属権という、その人だけに属しているものは対象になりません。
しかし、借金は一身専属権ではないため、相続すると支払いの義務が生じます。
未払金
未払金とは、これから支払う必要があるお金のことです。
亡くなった方が税金や携帯料金などを滞納していた場合に発生するマイナスの財産です。
連帯債務・保証債務・損害賠償債務
連帯債務、保証債務、損害賠償債務などの各種債務も相続すると支払い義務が生じます。
まず、連帯債務とは、複数人が連帯して負担する債務のことです。
たとえば、亡くなった方が誰かの連帯保証人になっていた場合には、連帯債務が発生している可能性があります。
また、保証債務は亡くなった方が保証人になっていた場合に発生します。
損害賠償債務は契約上の義務を守らなかった場合に発生するものです。
買掛金
買掛金とは企業同士の取引で、これから支払う必要があるお金のことです。
取引先から商品やサービスの提供を受けたものの、その料金をまだ支払っていない時に発生します。
亡くなった方が事業を営んでいた場合には、買掛金が発生している可能性があります。
借金がある人から相続する時の3つの対処法
借金がある人から相続する時の対処法は主に以下の3つです。
対処法①:単純承認する
単純承認とは通常の相続方法です。
プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する方法になります。
多少マイナスの財産があっても、明らかにプラスの財産のほうが多い場合には、単純承認がおすすめです。
単純承認にする時には、特に手続きは必要ありません。
対処法②:相続放棄する
相続放棄とは相続を受ける権利を放棄することです。
相続放棄ではプラスの財産も受け継ぐことができませんが、マイナスの財産も一切受け継がなくて済みます。
ただ、相続放棄をすると、相続権が他の人に移ります。
そのため、相続放棄をすると相続権が移る人にはあらかじめ知らせておくのが無難です。
対処法③:限定承認する
限定承認とはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することです。
持ち家など、どうしても手放したくないものがある場合に用いられます。
ただ、限定承認は手続きが煩雑であるため、ほとんど利用されていないのが現状です。
相続放棄の3つのメリット
相続放棄のメリットは主に以下の3つです。
メリット①:借金を背負わなくて良い
相続放棄のメリットとしてまず挙げられるのは、借金を背負わなくて良いことです。
相続放棄では亡くなった方から何も受け継がなくて良いため、借金を返済しなくてよいのが最大のメリットと言えるでしょう。
メリット②:相続に一切関わらなくて良くなる
相続放棄のメリットとしては、相続に一切関わらなくて良くなることも挙げられます。
相続はマイナスな財産が多い場合も、ない場合も、複雑な手続きが多く発生し、大変です。
大切な方が亡くなったのですから、気持ちも動揺していることでしょう。
相続放棄をすれば相続に関する手続きや面倒な協議などを何もしなくて良くなるため、面倒事から解放されるというメリットもあります。
メリット③:単独で行える
相続放棄のメリットとしては、単独で行えることも挙げられます。
下で説明する限定承認は相続人全員で行う必要があるのですが、相続放棄は1人でも行えます。
他の人に相談せずとも行えるので、比較的手軽と言えます。
相続放棄する時の8つの注意点
相続放棄する時の注意点は主に以下の8つです。
注意点①:資産も相続できなくなる
相続放棄する時の注意点としてまず挙げられるのは、資産も相続できなくなることです。
相続放棄では相続に関わるすべての権利を放棄するため、マイナスの財産も、プラスの財産も何も受け継げなくなります。
どうしても受け継ぎたい資産がある時には利用しにくい制度と言えるでしょう。
注意点②:撤回はできない
相続放棄する時の注意点としては、撤回はできないことも挙げられます。
相続放棄は一度してしまうと、たとえ相続したいものが後から見つかっても撤回はできません。
やり直しが効かない手続きなので、慎重に考えてから相続放棄をするようにしましょう。
注意点③:3ヶ月以内に行う必要がある
相続放棄する時の注意点としては、3ヶ月以内に行う必要があることも挙げられます。
正確には、自分に相続の権利があることを知ってから3ヶ月以内に相続放棄をする必要があります。
3ヶ月が経過すると、自動的に単純承認になってしまい、マイナスの財産も受け継がなくてはいけなくなるので注意しましょう。
ただ、裁判所に申し立てを行うことで、本来3ヶ月の熟慮期間を延長することが可能です。
注意点④:他の親族とトラブルになる可能性がある
相続放棄する時の注意点としては、他の親族とトラブルになる可能性があることも挙げられます。
相続放棄を行うと、相続の権利が他の人に移ります。
そのため、何の相談もせずに相続放棄を行うと、「借金を押し付けられた」と感じる方もいるかもしれません。
事前に相談し、借金を受け継ぎたくない場合には相続放棄をするよう説明すると丁寧でしょう。
注意点⑤:生前の相続放棄はできない
相続放棄する時の注意点としては、生前の相続放棄はできないことも挙げられます。
生前から明らかにマイナスの資産が多いことがわかっている場合、生前から相続放棄したくなるものです。
しかし、相続放棄は必ず亡くなった後に行う必要があります。
注意点⑥:遺産分割協議書だけでは相続放棄できない
相続放棄する時の注意点としては、遺産分割協議書だけでは相続放棄できないことも挙げられます。
相続の手続きでは、相続人が相続について話し合う遺産分割協議が行われます。
この中で一切財産を受け取らないと表明しても、相続放棄ができるわけではありません。
相続放棄をする時には、必ず家庭裁判所に申し立てを行いましょう。
注意点⑦:相続財産に手を出すと相続放棄できなくなる
相続放棄する時の注意点としては、相続財産に手を出すと相続放棄できなくなることも挙げられます。
たとえば、亡くなった方の銀行口座からお金を引き出すなど、プラスの財産に手を出すと、自動的にマイナスの財産まで引き継ぐ必要が出てきます。
相続放棄をする場合には、相続財産には一切手を付けないでおきましょう。
注意点⑧:相続財産を隠すと相続放棄できなくなる
相続放棄する時の注意点としては、相続財産を隠すと相続放棄できなくなることも挙げられます。
相続財産を隠し、自分のものにしようとした場合には、マイナスの財産まで継承する必要があるので注意しましょう。
相続財産は正直に申告するようにしましょう。
相続放棄をする時の5つの手順
相続放棄をする時の手順は主に以下の5つです。
手順①:財産調査を行う
相続放棄する時には、まずは財産調査を行います。
実際にプラスの財産とマイナスの財産がどのくらいあるのか把握し、相続放棄するのか決定するためです。
財産には主に預貯金や不動産があります。
預貯金は通帳など、不動産は固定資産税通知書などで確認することができます。
手順②:必要な費用・書類を用意する
次に、相続放棄に必要な費用や書類を用意します。
まず、費用としては、800円の収入印紙代と、裁判所によって金額が異なる郵便切手代が必要です。
なお、相続放棄手続きを代行してもらう場合には、3万円程度の依頼料はかかると覚悟しておきましょう。
また、相続放棄には場合別に以下のような書類が必要です。
- 相続放棄申述書
- 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票
- 申し立てる人の戸籍謄本
- 亡くなった方の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 相続放棄申述書
- 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票
- 申し立てる人の戸籍謄本
- 亡くなった方の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- (申立人が孫の場合)本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 相続放棄申述書
- 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票
- 申し立てる人の戸籍謄本
- 亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- (亡くなった方の子供で死亡者がいる場合)その子供の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- (亡くなった方の直系尊属で死亡者がいる場合)その直系尊属の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 相続放棄申述書
- 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票
- 亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- (亡くなった方の子供で死亡者がいる場合)その子供の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- (亡くなった方の直系尊属で死亡者がいる場合)その直系尊属の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- (申立人が甥姪の場合)本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
手順③:家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
次に、家庭裁判所に行き、相続放棄を申し立てます。
相続放棄の申し立ては、亡くなった方の住民票の届け出がある場所を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
申し立ては原則として本人が、相続の開始を知ってから3ヶ月以内に行います。
手順④:相続放棄に関する照会書を返送する
相続放棄を申し立てると、約10日後に家庭裁判所から相続放棄に関する照会書が送付されてきます。
この書類に必要事項を入力して、家庭裁判所に送付しましょう。
手順⑤:相続放棄が受理される
最後に、相続放棄が受理されます。
相続放棄に関する照会書を送付してから約10日で家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付されてきます。
この通知書を受け取った段階で相続放棄が認められることになります。
ちなみに、相続放棄申述受理通知書を紛失した場合には、相続放棄申述受理証明書を発行してもらえば問題ありません。
限定承認の3つのメリット
限定承認のメリットは主に以下の3つです。
メリット①:不動産を手元に残せる
限定承認のメリットとしてまず挙げられるのは、不動産を手元に残せることです。
たとえ借金などでマイナスの財産が多くても、今まで住んできた家を手放したくないという場合は多いでしょう。
限定承認では、受け継ぐプラスの財産の分だけマイナスの財産を引き継げば良いので、最小限のコストで家を残せます。
メリット②:隠れたマイナスな財産がある心配をしなくて良い
限定承認のメリットとしては、隠れたマイナスな財産がある心配をしなくて良いことも挙げられます。
相続では、後からマイナスな財産が見つかることが少なくありません。
たとえば、亡くなった方が周りに隠して借金をしていた場合、単純承認にしてしまうと損することがあります。
一方、限定承認であれば、マイナスの財産はプラスの財産の分だけ受け継げば良いです。
そのため、隠れたマイナスの財産があっても、特に負担が増えることはありません。
メリット③:後から発見された財産も相続できる
限定承認のメリットとしては、後から発見された財産も相続できることも挙げられます。
相続放棄をした場合には、後からプラスの財産のほうが明らかに大きいことがわかっても、何も相続することはできません。
一方、限定承認の場合には、後から見つかったプラスの財産も相続可能です。
限定承認する時の3つの注意点
限定承認する時の注意点は主に以下の3つです。
注意点①:相続人全員で行う必要がある
限定承認する時の注意点としてまず挙げられるのは、相続人全員で行う必要があることです。
相続人全員で話し合い、家庭裁判所に一緒に申述する必要があります。
誰かひとりでも反対した場合には、単純承認か相続放棄を選ぶしかありません。
注意点②:3ヶ月以内で行う必要がある
限定承認する時の注意点としては、3ヶ月以内で行う必要があることも挙げられます。
相続放棄と同じように、限定承認の申し立ては相続開始を知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。
3ヶ月を過ぎてしまうと、自動的に単純承認をしたことになってしまうので注意しましょう。
ただ、3ヶ月以内に決められない場合には、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、起源を延長することが可能です。
ちなみに、相続人の一部が3ヶ月の熟慮期間を過ぎている場合も、他の相続人の熟慮期間が過ぎていない場合には、限定承認ができるとした判例もあります。
注意点③:譲渡所得税がかかる
限定承認する時の注意点としては、譲渡所得税がかかることも挙げられます。
限定承認では、亡くなった方から相続人に、財産が時価で譲渡されたとみなされます。
そのため、譲渡所得税を払う必要があるのです。
また、限定承認では相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に、準確定申告も行う必要があります。
限定承認する時の8つの手順
限定承認する時の手順は主に以下の8つです。
手順①:財産調査を行う
限定承認する時には、まずは財産調査を行います。
財産調査とは、亡くなった方がどれだけのプラスの財産、マイナスの財産を持っていたかを調査することです。
財産調査で正確に財産を把握することで、はじめて限定承認すべきかどうかわかるからです。
家に届いた亡くなった方向けの郵便物や、亡くなった方の通帳などを調査することで、亡くなった方の財産を把握することが可能です。
一通り財産の調査が終わったら、財産目録を作成して、亡くなった方がどのような財産を持っていたのか一覧にします。
なお、自力で調査するのが難しい場合には、弁護士など専門家に頼ると良いでしょう。
手順②:必要な費用・書類を用意する
次に、必要な費用と書類を用意しましょう。
まず、家庭裁判所に限定承認を申し立てる費用として、収入印紙代と切手代が必要です。
収入印紙代は相続人1人につき800円、切手代は1000円程度になっています。
また、限定承認の申し立てには、以下のような書類も必要になってきます。
- 限定承認申述書
- 亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍
- 亡くなった方の住民票除票もしくは戸籍附票
- 申述人(相続人のこと)全員の戸籍謄本
- 相続関係に応じた必要書類
手順③:家庭裁判所に限定承認を申し立てる
次に、家庭裁判所に限定承認を申し立てます。
限定承認では、この家庭裁判所への申し立てまで含めて、相続開始から3ヶ月以内に行う必要があります。
限定承認の場合には、相続人全員で申し立てをする必要があるので注意しましょう。
申し立てを行い、改定裁判所から受理の審判が下されて初めて、限定承認をすることが可能です。
手順④:請求申立の公告・催告を行う
次に、限定承認の受理から5日以内に請求申立の公告・催告を行います。
これは、借金をしている相手に限定承認のことを知らせ、「債権を持っている場合には名乗り出てください」と呼びかけるためです。
官報は政府が発行する機関紙で、官報には2ヶ月以上掲載する必要があります。
ちなみに、相続人が複数の場合には、この手続きは家庭裁判所が選任した相続財産管理人が進めます。
手順⑤:財産管理口座を作成する
財産管理口座は、相続人が2人以上いる時に作成する必要があります。
財産管理口座とは、相続財産の管理を行うために開設される口座のことです。
財産管理口座は相続財産管理人が管理することになります。
手順⑥:相続財産の換価をする
次に、相続財産の換価が行われます。
これは、相続財産を換金し、債権者に分配するために必要な措置です。
具体的には、亡くなった方の口座から財産管理口座に預金を移し、亡くなった方の口座を解約します。
また、相続財産の中に不動産がある場合には、相続財産管理人が家庭裁判所に不動産競売の申し立てを行います。
そして、申し立てが受理されたタイミングで、不動産を売却して換金します。
手順⑦:配当弁済を行う
次に、換金した相続財産をもとに、名乗り出た債権者に返済を行います。
限定承認では換金した財産ですべての借り入れを返済できることは少ないです。
そのため、債権額の割合に応じて返済を行うことになります。
ちなみに、いわゆる過払い金があった場合には、過払い金を請求を行った上で、返済を行うことになります。
手順⑧:残余財産の処理をする
最後に、残余財産の処理を行います。
期間内に申し出なかった債権者や、そもそも把握していなかった債権者には、配当弁済を行った後の残りの財産で弁済をすることになるからです。
借金の相続のまとめ
相続の対象になる借金は以下のとおりです。
相続放棄のメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
限定承認のメリットとしては以下のようなものが挙げられます。