事業売却とは、会社・組織として行っている事業の一部または全部を売却する手法です。
事業売却をすることで、売却した事業を継続できたり、ご自身の会社の財政が良くなったり、新規事業への投資が出来たりなどメリットも多くあります。
事業売却と聞くと、マイナスのイメージが強いという方も多いと思いますが、事業継承と言う面では非常にプラスになる場合も多いことから、事業売却に興味を持っている経営者の方も多いです。
この記事では、事業売却の特徴、事業売却の方法、メリット・デメリット、事業売却のプロセス等を解説します。
- 事業売却とは運営する事業のみを売却する手法
- 事業売却には事業譲渡と株式譲渡の2種類がある
- 事業売却の相場の計算方法は2種類
- 事業売却には売り手にも買い手にも、多くのメリット・デメリットがある
- 事業売却の手順は9ステップ!
- 事業売却によくある質問の答え
\M&Aの専門家に無料相談/
事業/会社売却の相手を探す!会社売却について詳しく気になる方はこちら
会社売却のメリット・デメリットとは?ポイントやおすすめ業者も併せて紹介!
目次
事業売却とは?
こちらでは、事業売却の目的と会社売却との違いについて解説します。
事業売却の目的
事業売却とは、前述したように、ご自身の会社・組織として行っている事業の一部または全部を第三者に売却する手法です。
そして、事業売却を行う主な目的には以下の4つです。
事業売却の目的①:事業継続のため
中小企業の場合は、後継者がおらず事業承継が困難になり、事業売却をする事で自社の事業を継続する目的があげられます。
事業売却には、売り手の土地・建物や設備などの固定資産、特許・商標権・人材等の無形資産も含まれます。
そのため、事業売却が成功すれば、従業員の雇用の継続はもとより、これまで培ってきた技術、経営ノウハウが途絶えることはありません。
事業売却の目的②:生活資金の確保
零細企業の経営者に目立ちますが、経営者が老後を見据え老後の生活資金の確保するために事業売却を行うケースがあります。
もちろん、大企業では事業売却の影響は大きいので、この目的のために経営者の一存で事業売却を行うのはまず無理です。
事業売却の目的③:事業見直し
大手企業の事業売却の場合、事業の見直しの目的で事業売却を行うことがあります。
自社で採算の取れない部門があり、今後もその状況が継続すると考えられるなら、不採算部門として売却をします。
そして、得られた売却資金を、今度は利益を生み出している他の部門へ投資して、会社全体の業績回復を目指すというケースが考えられます。
事業売却の目的④:他企業の傘下に入るため
一見、他企業に敗北したかのような印象を受けますが、ベンチャー企業のような成長段階にある会社でよく見られる事業売却です。
事業売却するベンチャー企業からみれば、大手の他企業の傘下に入れば財政基盤が安定する効果が期待できます。
財政が安定すれば更に優秀な人材を獲得することも出来て、新しい技術の獲得を進められるなら、他企業の傘下に入ったとしても結果として会社全体の成長につながります。
事業売却と会社売却の違いについて
事業売却は、ご自身の会社の事業の一つ、または複数の事業を他の会社へ譲渡する手法です。
この場合、必ず会社自体がなくなる訳ではないので、事業売却しなかった事業は、ご自身の会社の事業として残ります。
一方、会社売却ならば、ご自身の会社が保有する全ての株式が他社に譲渡されます。
会社売却は、自社に関わる全ての事業・資産を他社へ譲渡する手法です。
つまり、会社売却では経営権を手放すということになります。
事業売却:事業のみの売却であり会社は存続する。
会社売却:会社自体を売却してしまうこと。
事業売却の方法2選
こちらでは、事業譲渡・株式譲渡について解説します。
事業売却の方法①:事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の売却を行うことです。
事業譲渡では、買い手から現金が支払われますが、この売却益は会社に対して支払われます。
つまり、事業譲渡をしても経営者個人が儲かるわけではないので注意しましょう。
事業譲渡は、事業の選択・集中をすることで企業再生の手段として、企業規模を問わず広く活用されています。
事業売却の方法②:株式譲渡
株式譲渡とは、会社の保有している株式を売買する方法です。
株式譲渡による売却益は経営者(株主)に支払われます。
比較的簡便な手続きで会社の経営権を移転させることができます。
目的は、主に前述した経営者の売却益の獲得の他、大手企業の傘下へ入り事業規模を拡大する、従業員の雇用先の確保等が挙げられます。
この方法は、中小規模の会社の事業売却で最も広く行われています。
会社が抱える数多くの経営課題に対応しやすいというのが理由のようです。
事業譲渡:会社に売却益が入り、企業規模を問わずに活用されている。
株式譲渡:経営者に売却益が入るため、中小企業で多く活用されている。
株式譲渡について詳しく気になる方はこちら
株式譲渡とは?メリット・デメリットから手続き方法・見落としがちな注意点まで解説!
事業売却の相場
こちらでは、事業売却の相場について解説します。
「一律〇〇〇〇万円」などと法定されてはいない
そもそも事業売却の決め方が法定されているわけではなく、かいつまんで言えば、売却価格・買収価格をどう決めようが当事者の自由ですが、法外な価格では誰も買い手として名乗りをあげないでしょう。
そこで、事業売却の相場は、株式市場と照らし合わせて決めるのが適切です。
つまり、売却対象事業の純利益が分かれば、相場を計算することができます。
例えば
売却事業の純利益が年間1,200万円、東証一部に上場している銘柄で平均の株価収益率(PER)が21.2倍の場合
1,200万円×21.2=2億5,440万円
2億5,440万円と算出できます。
ただし、株式市場はマクロ経済などの影響を受けやすいこと、類似企業のPERも考慮すべきではあります。
年買法でも計算可能
簡易的に事業売却相場を把握したいなら、年買法でも計算が可能です。
事業売却の相場として「修正純資産+営業利益×3~5年」で取引が成立するケースは多いです。
例えば
事業売却する際の修正純資産が1億2,000万円、毎年の営業利益1,200万円の場合
1億円2,000万円+1,200万円×3~5年=1億5,600万円~1億8,000万円
事業売却の金額目安は1億5,600万円~1億8,000万円となります。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却のメリット5選(売却側)
こちらでは、売却側の事業売却メリットを5つ紹介します。
事業売却のメリット①:事業売却をすることで資金調達できる
事業売却をすれば、売り手は売却益を得ることができます。
事業売却は売買契約で成立するので、当事者で契約が成立すれば売却益を得られる点は大きなメリットとえいます。
事業売却の成功で、負債を抱えている事業を譲渡し、新規事業への投資等を行うことで経営改善を図ることができます。
ただし、売買契約といっても、事業売却の道のりは長く、数々のハードルをクリアして成立させる必要があります。
このプロセスについては後述します。
事業売却のメリット②:従業員や資産は残しておける
事業売却では、会社の従業員・資産を残せるのがメリットです。
事業売却の場合は、会社自体は存続するため、可能な限り以前のままの従業員体制で仕事に取り組める点はメリットと言えます。
また、売却益を得られることはもちろん、資産をそのまま残せるので、新規事業への投資や経営改善の努力も継続して行うことができます。
事業売却のメリット③:一部だけ事業を譲渡できる
不要な事業だけを譲渡できる点も便利です。
さすがに、会社の好調な事業まで売却しなければいけないなら、なかなか売却の決断はできないことでしょう。
利益が上がらない等、何らかの問題を抱えている事業なら、買い手に譲渡することで経営を安定的に促進できるはずです。
事業売却のメリット④:会社の商号を使い続けられる
事業売却しても会社自体は存続する以上、商号はもちろん使い続けられます。
商号がいきなり変わると、以前から贔屓にしてもらっていた取引先や顧客が困惑してしまうはずです。
事業売却を行うことで目的が達成されるなら、取引先や顧客に混乱を生じないよう配慮することも大切です。
事業売却のメリット⑤:債権者への通知などが必要ない
事業売却では、債権者への通知・公告が不要なので、債権者の意向を気にすることなく、プロセスを進めることができます。
交渉の最中に債権者から横やりが入れば、いつまで経っても交渉が進みませんが、債権者が納得できる事業売却でなければ人心は離れてしまいます。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却のメリット4選(買収側)
こちらでは、買い手側の事業売却メリットを4つ紹介します。
事業売却のメリット①:事業や資産を選択することができる
事業売却の際、買い手が求める資産・事業を自発的に選定できる点が大きなメリットです。
売り手に言われるがまま、不要と感じる事業や資産など引き継ぐ必要はありません。
売り手・買い手のニーズが合致したとき事業売却は成立します。
当然、買い手も希望条件を提示し、売り手と交渉して自社の望む事業を買い取る事が可能です。
事業売却のメリット②:のれんを損金扱いにできる
「のれん」とは、企業間の買収の他、合併時に出てくる概念です。
こちらは【超過収益力】や【営業権】等と解釈されています。
「のれん」という資産は、信用力やブランド力・技術やノウハウと言った、これまで事業を続けてきた財産と言えるでしょう。
したがって、「のれん」の持つ付加価値を消費することで、事業展開した結果につながると言えます。
そのため、事業を買い取った後5年間は、「のれん」の相当額を償却(のれん償却)と言う損金扱いに出来るのです。
つまり、買い手にとって節税につながると言う事になります。
事業売却のメリット③:簿外債務のリスクを負わなくて良い
簿外債務とは、貸借対照表上に記載されていない債務を指します。
代表的なものとしてはデリバティブ・保証に関わる偶発債務、会計操作による飛ばし行為等が該当します。
簿外債務の引き継ぎが不要となる点は、買い手にとって大きなメリットです。
簿外債務を引き継いでしまうと、事業運営に支障が出ることもありますが、引き継ぎが不要なので安心して事業を買収できることでしょう。
事業売却のメリット④:債権者への通知などが必要ない
事業売却の買い手側も、売り手と同様に債権者への通知や公告が不要です。
事業売却は、買い手としても新たな事業を行えるので迅速な手続きが望まれます。
不要な手続き・通知を省くことで、当事者がスムーズな形で事業売却を進めていくことが可能となります。
ただし、債権者が不安にならないよう、「デューデリジェンス」を慎重に行うことが必要です。
デューデリジェンスについても後述します。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却のデメリット3選(売却側)
こちらでは、売却側の事業売却デメリットを3つ紹介します。
事業売却のデメリット①:売却する際に税金がかかる
売り手としては事業売買で、希望の売却価格で契約が成立したら大喜びでしょう。
しかし、売却益を得られる以上、売却時の利益には税金がかかります。
法人の場合にも当然ながら「納税の義務」はありますので、うっかり申告し忘れると税務署からペナルティが課されるので注意しましょう。
事業売却のデメリット②:株主総会を開く必要がある
事業売却は、当事者同士で100%勝手に進めて良いわけではありません。
事業売却を締結する場合は、株主総会での特別決議が必要となります。
売り手側は株主からの賛同が必要になりますので、事業売却を成功させるために色々と根回し・手続きを行うことも必要です。
ただし、ご自身の会社で売却する資産が、会社の総資産の1/5を超えなければ特別決議は不要です。
事業売却のデメリット③:事業別財務諸表などの準備がある
事業別財務諸表とは、企業が利害関係者に対し、事業別の一定期間の経営成績・財務状態等を明らかにするため複式簿記に基づき作成する書類です。
事業別財務諸表をはじめとした関係書類は、買い手のデューデリジェンスの際に、提出しなければいけないため、事前に準備が必要となります。
これらの書類が調査され、買い手は事業売却を進めるか、中止するかが判断されます。
とはいえ、売り手としては買い手に企業の財務状況等が筒抜けになるので、情報漏洩のリスクも考えられます。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却のデメリット2選(買収側)
こちらでは、買い手側の事業売却デメリットを2つ紹介します。
- 事業売却の手続きが面倒
- 消費税がかかる
事業売却のデメリット①:事業売却の手続きが面倒
事業を買い取った買い手は、いきなりその事業を運営できず、まず許認可の新たな取得が求められるケースもあります。
同業者間なら既に許認可権を取得していることでしょう。
しかし、各ケースによって、新たに行政上の手続きを行うことが必要です。
各種移転手続きに追われ、時間的制約・物理的制約がかかるリスクもよく把握しておきましょう。
事業売却のデメリット②:消費税がかかる
事業譲渡は「事業」という、会社の資産・負債・人材・ブランドといった財産を売買する行為と認識されます。
このようなことから、事業の中に「課税資産」が含まれていると考えられる場合には消費税が発生するのです。
交渉やデューデリジェンスに時間をとられ、消費税が発生することをうっかり失念していると、資金計画がうまくいかなくなるケースもあります。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却と税金
こちらでは事業売却に関する税金について詳しく解説します。
買収側の税金
買収側の税金で最も分かりやすいのは消費税です。
消費税は、売却内容に課税資産が含まれている場合に買収側が支払うことになっています。
買収側が売却側に消費税を支払い、その後、売却側が税務署に納付する流れです。
また、売却内容に不動産が含まれている場合は、不動産取得税が課税されます。
登記の書き換えを行なう際には登録免許税も発生します。
これら以外にも、売却内容次第では償却資産税・固定資産税・都市計画税などが発生します。
買収側の節税
買収側の節税は、一定の条件をクリアした場合のみ有効になります。
売却内容に営業権が含まれている場合、買収した資産の時価を超える部分の価額は、5年間の均等償却という条件の下に課税所得の損金に算入することができます。
売却側の税金
売却側の税金としては当然、法人税が課税されます。
法人税が課税される場合は、それに付随する形で地方法人税・法人住民税・事業税も課税されます。
課税の対象額は、譲渡売却対価が譲渡資産の簿価を上回った部分のみです。
また、売却側も、売却内容に課税資産が含まれていれば消費税が課されます。
しかし、先ほども述べたように、売却側は納付するだけで実際に負担する側は買収側です。
他にも、対象となる内容が含まれていれば償却資産税・固定資産税・都市計画税などが課される場合もあります。
売却側の節税
売却側の節税で最も効果的なものは法人税です。
経費の計上をもれなく行うことで、課税所得を下げることが重要となります。
また、各種保険や共済などへの加入も経費として認められるので、役員や経営者の退職金積立などを積極的に契約することも効果的です。
事業/会社売却の相手を探す!できるだけ高く事業売却するためのポイント3選
こちらでは、事業を高く売却するための3つのポイントについて解説します。
事業売却のポイント①:独自の特徴を持っている
買い手が現在運営している事業にはない、売り手独自の事業とノウハウがあれば、その価値を買い手側は高く評価してくれるはずです。
そのため、売却しようとする事業の魅力や、買い手側に資する事業内容を交渉の際にハッキリ示すことが求められます。
事業売却のポイント②:財務状況が健全
売り手の税務状況が健全であることも高評価の一つです。
しかし、高く売却したいばかりに良い面しか交渉の際にアピールしないと、事業売却を進める過程でとんでもない負債がバレてしまうこともあります。
買い手は売り手が果たして健全な財務状況なのかや、深刻な法令違反等を起こしていないか調査することを「デューデリジェンス」と呼びます。
デューデリジェンスは、買い手がチーム編成で行う場合もあれば、買収に関する専門家が依頼を受けて行う場合もあります。
デューデリジェンスでの交渉では話題にすら出なかった、深刻な財務状況・法令遵守違反等が発覚したら、交渉は最悪中止となります。
そのため、調査されても問題ないほど税務状況が健全ならば、買い手の大きな信頼を得ることができ、希望に近い売却価格での契約成立が期待できます。
事業売却のポイント③:事業に将来性があるかどうか
売却したい事業で、買い手が成長できる事業なのか否かで売却価格は左右されることでしょう。
将来性が認められなければ、希望よりずっと低い買収価格で契約せざるを得ないか、交渉が決裂することもありえます。
こうなると、事業廃止しか選択肢が残されていないことになるでしょう。
売り手には説得力のある将来性へのアピールが求められます。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却の事例
こちらでは、近年行われた事業売却の事例についてご紹介します。
事業売却の事例①:オンキヨーホームエンターテイメントがシャープにホームAV事業を売却
譲渡企業 | オンキヨーホームエンターテイメント |
---|---|
譲受企業 | シャープ |
譲渡価格 | 3,323百万円 |
オンキヨホームエンターテイメントは、1946年設立の大手音響メーカーです。
近年では、業績悪化により2020年3月末、2021年3月末と2期連続の債務超過となり、東証の上場廃止基準に該当しています。
結果として、2021年8月1日に上場廃止となっていますが、業績を回復させ再上場を目指す旨の発表をしています。
オンキヨーは本業である主力事業であるホームAV事業をシャープ、VOXXに約33億円で事業売却しています。
オンキヨーのブランド名は維持され、シャープが生産、VOXXが販売を担当することが発表されています。
それぞれの知見、ノウハウ、技術、取引先、ビジネスの専門分野を活かした引き継ぎ先となっています。
財務内容が悪化してしまい、債務超過という問題に対応するため、企業が本業を事業売却し、再生を目指すという事例になります。
事業売却の事例②:楽天がオーネットにウェディング事業を売却
譲渡企業 | 楽天 |
---|---|
譲受企業 | オーネット |
譲渡価格 | 非公表 |
株式会社オーネットは、「オーネット」を運営する、結婚に特化した関連のサービスを手掛けている企業です。
2018年4月1日に楽天はウエディング事業「楽天ウエディング」を子会社の株式会社オーネットに事業譲渡することを発表しました。
楽天ウェディングは披露宴会場や結婚指輪を探す情報サービスサイトです。多結婚式の準備に関する情報なども取りまとめてあり、多くのユーザに利用されていました。
結婚情報サービス事業を手掛けているオーネットは楽天ウエディングを取り込むことでさらなる事業領域の拡大を図っています。
事業売却の事例③:日本リビングがフォーシーズホールディングスにアロマ事業を売却
譲渡企業 | 日本リビング |
---|---|
譲受企業 | フォーシーズホールディングス |
譲渡価格 | 89百万円 |
フォーシーズホールディングスは、化粧品・健康食品のEC事業を営んでいる東証2部上場企業です。
日本リビングは、アロマグッズを販売する事業を、事業譲渡のスキーム二より、89百万円で事業売却しています。フォーシーズホールディングスが新たに「合同会社アロマ」を設立し、合同会社アロマが買い手として、アロマ事業を買収しています。
フォーシーズホールディングスは、今後も巣ごもり需要が拡大すると考え、化粧品や健康食品ともシナジーのあるアロマグッズを商材に加えることができました。
売り手である日本リビングにとっては複数の事業を行なっている中の一部事業の売却に成功しています。買い手であるフォーシーズホールディングスにとっては、EC事業を営んでいくに当たり、「アロマ」という巣ごもり消費に強い商材を手に入れられたことになります。
事業/会社売却の相手を探す!事業売却の流れ・手順
こちらでは、事業売却の一連のプロセスについて解説します。
事業売却の手順①:買い手(売り手)を探す
まずは、ご自身で事業売却を持ちかけたい相手企業についてリサーチします。
もしも、ご自身の会社が地域密着型の企業なら、地方の金融機関(銀行等)に相談すると、同じ地域の買い手を紹介してくれる場合もあります。
なお、自ら率先して探したいなら、事業売却・M&Aマッチングサイトを利用しましょう。
このようなM&A専用サイトも登場しており、売り手が登録料無料のケースも多いです。
マッチングサイトでは、買い手が「どんな買収を行いたいか?」「買収したい職種はどれか?」等が掲載されています。
ご自身の会社の理想の売却相手に近いなら、アプローチをすることが可能です。
また、買い手側から買収を自社に持ち掛けてくることもあります。
買い手を探す場合には、地方の金融機関への相談か、事業売却・M&Aマッチングサイトを活用が便利。
事業売却の手順②:買い手(売り手) と調整開始
ご自身の会社が売却相手へアプローチまたは買い手側から交渉を願い出たら、いよいよ話し合いを開始します。
もちろん経営のトップ同士が互いに、譲渡したい事業・価格・条件等を調整していきます。
なお、買い手が取引希望の意向を示し、取引の内容について調整を図るとき用いられる書類が「意向表明書」です。
意向表明書はほとんどのケースで、経営のトップ同士の面談を終えたタイミングで提示されます。
書類の内容は次の通りです。
- 買い手→売り手への希望
- 希望する買収の手法・希望価格
- スケジュールに関する希望
ただし、意向表明書はあくまで買い手の希望を書面化しただけなので、法的拘束力はありません。
この交渉には、事業売却・M&A専門家や仲介業者を立てても構いません。
売り手側と買い手側の取引が決まれば【意向表明書】が作製される。交渉ごとに専門家や仲介業者を入れるとスムーズ。
事業売却の手順③:交渉当事者が基本合意
ご自身の会社が買い手の希望する価格・条件等に納得したら、「基本合意書」の締結で事業売却に向けた基本合意をします。
基本合意書は、意向表明書と同様に法的な拘束力はありませんが、基本合意書は売り手・買い手が互いに事業売却を進めることについて、合意の上で締結する書類となり一連のプロセスを円滑化させることに役立ちます。
基本合意書を必ず締結しなければいけない決まりはないですが、基本条件に納得ができない場合、無理に基本合意を進めると、事後にトラブルの発生するリスクもあるので注意が必要です。
そのため、交渉を行う経営者の独断でいろいろ決めずに、役員・従業員の意見はもちろん、買収に関する専門家(仲介業者)、買収に詳しい弁護士等のアドバイスも参考に、基本合意を進めていく必要があります。
売却に関する内容が決まったら、基本合意書を作成して詳細を決めていく。この時も専門家や仲介者を入れるとスムーズ。
事業売却の手順④:デューデリジェンスの実施
基本合意書を締結したら、買い手は事業の譲受を実施する際の、売り手の価値・リスク等の調査を行います。
この調査は「デューデリジェンス」と呼ばれています。
デューデリジェンスは財務はもちろん、法務・人事・技術・事業・IT等にまで及びます。
売り手である会社は、デューデリジェンスへ誠実に協力する必要があります。
もしも、事業売却に都合の悪い事実を隠していたら、事業譲渡契約は不成立となるおそれがあります。
ケースによっては長期間を要する場合があるものの、この調査で問題が確認されなければ、買い手から大きな信頼を勝ち取ることができます。
基本合意書の締結後は、買い手側が売り手側の事業内容や財務状況などを調査する。
事業売却の手順⑤:取締役会を開催
デューデリジェンスを問題もなくクリアすれば、取締役会で事業売却を決定していきます。
会社役員の決議をして、最終的な事業売却のため本格的な契約を進める段階となります。
事業売却のプロセスでは、そろそろ佳境に差し掛かっています。
しかし、念には念を入れ、この時点で書類・契約事項に不備がないようか否か、最終確認をすることが大切です。
調査が終われば、取締役会で決議をする。
事業売却の手順⑥:事業譲渡契約を締結する
取締役会での決定後、いよいよ「事業譲渡契約書」を締結する手続きへに移行します。
取締役会の承認後、事業譲渡契約書を締結すれば事業売却の契約は完了です。
事業譲渡契約書は法的拘束力があり、一度締結すれば、売り手も買い手も契約内容に拘束されます。
ご自身の会社でのチェックの他、買収に関する専門家(仲介業者)、買収に詳しい弁護士等の意見も聞いて締結することが重要です。
事業譲渡契約書を締結して事業売却は完了します。事業譲渡契約書は専門家の意見を聞いて作成した方が良い。
事業売却の手順⑦:報告書の作成・提出
事業譲渡契約書の締結終了後、報告書を作成し提出・届出を行います。
ご自身の会社の中で、事業売却に関する情報を保管しておくため重要な書類となります。
また、臨時報告書の提出、公正取引委員会への届け出も行います。
この事業売却が、ご自身の会社にとって、最初で最後となるわけではないでしょう。
今後の事業売却を見すえ、過去の記録を参考に進められるよう、社内で事業売却に関する報告書をしっかり管理しておくのが大切です。
事業売却後は、各種手続きが必要なる場合がある。また事業売却に関する資料は保管しておくと良い。
事業売却の手順⑧:株主への対応
事業売却は、株主総会での決議も原則として必要です。
会社・事業の方針を株主に説明し株主への通知・公告が必要です。
株主から納得してもらうためには、事業売却の有用性をしっかりと説明する必要があるでしょう。
決議には原則として議決権の過半数の株主が出席、3分の2以上にあたる賛成が必要です。
もしも、事業売却に反対した株主が株式の買い取り請求を望んだならば、その株式を買い取る必要が出てきます。
事業売却には、株主総会の出席者3分の2以上の賛成が必要となる。
事業売却の手順⑨:事業売却の完了
株主も事業売却に納得してくれて、賛成を取り付けたなら、あとは一安心ではなく、今度は監督官庁への許認可(買い手)・各種手続きを進めなければいけません。
このプロセスで、ご自身の会社の財産・権利・債務、契約といった事項の移転手続きをとらなければいけません。
これらの手続きを終えればよやく事業売却は完了します。
事業売却を決定してから完了に至るまで、最短で1カ月程度、通常は3~6カ月はかかると考えておいたほうが良いでしょう。
交渉が難航したり、デューデリジェンスで疑わしい事実が出てきたりした場合は、予想外に長期間を要する場合も想定されます。
事業売却には、最短でも1ヶ月、多くの場合は3~6ヶ月の時間が掛かる。
事業売却でよくある疑問
こちらでは、良くある質問である「事業売却でかかる税金」・「事業売却の会計処理の仕方」について解説します。
事業売却でかかる税金には何がある?
発生する税金には「消費税」「法人税」の2種類があります。
消費税
前述したように事業売却は、売り手の資産・負債・人材・ブランドといった財産を売買する行為と解釈されます。
売り手の事業を購入した際の消費税については「課税資産額×10%」で計算できます。
例えば、事業を取得し全資産額が11億円で、事業の非課税資産が3億円だった場合
(11億円-3億円)×10%=8,000万円
となり、8000万円が消費税額となります。
消費税の納付については、売り手側が移転する課税資産に消費税率をかけ合わせた額を買い手側から徴収して、消費税申告時納付することになります。
法人税
売り手が持つ事業を買い手に売却し、売却金額は売り手が受け取ります。
このとき、売り手が事業を売却し、売却利益が出ていれば法人税の課税対象となります。
事業売却では、売却する事業の【資産と負債の差額】を超過する売却金額が【事業売却における売却益】と見なされます。
その他、地方法人税・法人住民税・事業税・特別法人事業税も課されます。
これらの税金に関する全ての税率を合わせた「実効税率」は約30%となります。
事業売却の会計処理の仕方は?
売り手・買い手に分けて会計処理をみてみましょう。
売り手の場合
下表の「移転損益」は、事業を移転する直前の帳簿価格に基づき算出した「株主資本相当額」・「譲渡価格」の差額です。
また、事業売却でかかった支出額は、その金額が発生した事業年度の負債として処理されます。
- 譲渡資産の帳簿価格:500
- 譲渡負債の帳簿価格:300
- 付随費用:60
- 譲渡価格:440
借方 | 貸方 |
---|---|
譲渡負債 300 | 譲渡資産 500 |
現預金 440 | 移転損益 240 |
付随費用 60 | 現預金 60 |
買い手の場合
譲受価格(取得原価)に関して、取得した資産・負債を、譲り受けた時点での時価を基礎とし配分されます。
また、前述した「のれん代」は譲受価格(取得原価)・取得原価配分額の差額として計上されます。
定額法等の合理的な方法で、20年で規則的に償却されます。
- 譲受資産の帳簿価格:500
- 譲受負債の帳簿価格:300
- 付随費用:60
- 譲受価格:440
借方 | 貸方 |
---|---|
譲受資産 500 | 譲受負債 300 |
のれん 240 | 譲受価格 440 |
事業売却 まとめ
事業売却は、売り手・買い手が交渉を継続し、ウィンウィンの関係で契約を成立させるのが理想です。
しかし、一方は事業売却を頻繁に行い経験豊かな企業で、もう一方は全く事業売却未経験の場合は、やはり交渉能力に差が出てきてしまいます。
事業売却という大切な交渉の際に、安易な妥協は避けたいものです。
そのため、事業売却・M&Aに関する専門家を立てて、助力を得ながら交渉した方が無難です。
事業売却・M&A仲介会社を利用するなら、当事者の間に立ち公正中立な調整を図ってくれる場合が多いです。
中には事業売却を行った後も、いろいろな手続きに関するアドバイスをしてくれる業者もあります。
事業売却・M&A仲介会社等を利用すれば、それだけ費用はかかるものの、確実な事業売却の成功のため、仲介会社等への依頼を検討してみましょう。
事業/会社売却の相手を探す!