近年、360度評価は多くの企業に導入されており、従来までの人事における問題を無くし、評価の主体性を無くしたり、納得のできる評価ができたりします。
360度評価を行うことで、管理職の育成も期待できます。
本記事では、360度評価の概要や重要性が高まっている理由、導入するメリット・デメリットを解説します。
この記事を読めば下記ポイントについて理解できます。
- 360度評価は公平性と社員のモチベーションアップが見込める
- 人材評価の多様化によって360度評価の重要度が高まっている
- 360度評価は評価の主観性をなくし、納得できる内容になる
- 360度評価は報酬と紐づけず、フィードバックが重要
- 研修期間を設けることで360度評価をスムーズに導入できる
さらに、360度評価の注意点や評価項目、導入手順についても紹介します。
360度評価の導入を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/14/2/14_2_67/_pdf/-char/ja
目次
360度評価とは幅広い視点で行う人事評価
360度評価とは、立場に関わらず様々な人によって人事評価を行う方法です。
従来の上司だけの評価ではなく、同僚や部下など複数の人によって評価を進めます。
360度評価は一方的な評価ではなく、多角的な判断ができる点が特徴です。
また、360度評価は様々な角度から評価を行うため、評価内容に納得しやすい制度です。
公平な評価を行うことで、会社への信頼やモチベーションアップも期待できます。
さらに、360度評価は人材の良い部分だけではなく、悪い部分や改善点も洗い出せます。
上司からの一方的な評価は、問題点を提示しても十分に理解できず、スムーズな解決に繋げられませんでした。
一方、360度評価は客観的に改善点を提示できるため、適切な指導へ繋げることも可能です。
360度評価の目的
360度評価が導入される目的は、公平な評価と評価によるモチベーションアップを行うためです。
従来の人事評価は上司が部下の働き方や社内での立ち位置を判断します。
場合によっては一方的な評価となり、評価者の好き嫌いなどの主観が入ってしまうことがあります。
一方、360度評価では複数人で評価を実施するため、上司一人による一方的な評価をなくせます。
上司だけでは気付けない人材の良い部分・悪い部分を別の人による評価で補完が可能です。
より充実した人事評価となり、公平性を保てます。
また、360度評価による公正な評価で、従業員のモチベーションアップが見込めます。
上司以外の同僚や部下からの評価を確認でき、周りからどのような評価を得ているか把握できます。
より評価の公平性を実感できるため、人材育成の観点からも導入する企業が増えています。
360度評価の重要性が高まっている理由
360度評価を導入する企業が増えており、以前よりも重要度が高まっていると言えます。
360度評価の重要度が高まった理由は、単純な人事評価が難しくなっているためです。
例えば、新型コロナウイルスによって対面でのコミュニケーションが減少し、テレワーク環境下で人材の評価が求められています。
近年では年功序列を基準とした人事評価から、成果や内面を重視した評価を行う企業が増えています。
多様化した現状で企業が成長するためには、単純に勤続年数や年齢をベースとした評価を行うのではなく、多角的な評価が必要です。
また、業界に関わらず人材不足が懸念されており、新たな人材の獲得と並行して次期管理職候補の育成も重要です。
そのため、360度評価によって様々な角度で人材を評価する重要度が高まっていると言えるでしょう。
360度評価を導入する5つのメリット
360度評価を導入するメリットは、以下の5つです。
- 評価の主観性を無くせる
- 評価自体に納得ができる
- 自身が感じる評価のギャップを把握できる
- 社内のコミュニケーションが活発化する
- 管理職の育成も期待できる
それぞれ順に解説します。
評価の主観性を無くせる
360度評価を導入することで、人事評価の主観性をなくして客観的に評価できます。
評価の主観性とは、管理者の主観が入った評価を指します。例えば、上司の好き嫌いで評価したり、対象者の日常的な様子を評価できなかったりします。
主観的な評価は公平性が保たれなくなり、対象者は「自分を正しく評価してくれていない」と感じる可能性が高いです。
一方、360度評価は管理者の主観に左右されることなく人事評価を行います。
上司以外の同僚や部下も評価を行うため、従来の評価方法よりも公平で客観的です。
主観をなくすることで、評価の精度も高められます。
評価自体に納得ができる
360度評価は公平で客観的な評価となるため、対象者は評価自体に納得ができます。
不公平な評価や管理者の主観が入っている場合、対象者は内容に納得できない可能性が高いです。
納得できない評価は対象者が不満を抱えてしまい、受け入れてもらえないでしょう。
一方、360度評価は断片的な評価ではなく、複数人から客観的な評価を行います。
複数人の評価は客観性が担保されて、内容に納得感が生まれます。
納得できる評価は内容に関わらず、正しく評価してくれる職場に対して信頼感が高まり、より高いモチベーションで仕事へ取り組んでくれるでしょう。
自身が感じる評価のギャップを把握できる
360度評価は対象者が普段は感じられない、評価のギャップを把握できます。
評価のギャップとは、自身の考える評価と他者からの評価の開きです。例えば、対象者本人はコミュニケーション能力が低いと感じていても、客観的な評価を行うと実は周りの社員や取引先とも良好な関係を築けている場合があります。
従来の評価方法では、管理者からの一方的な評価になりやすく、ギャップに気づきにくい可能性が高いです。
360度評価を導入すれば、対象者本人は気づいていない自身の客観的な特性や強み・弱みを把握してもらえます。
また、評価のギャップが大きいほど、対象者の改善点が明確化されます。
フィードバックをもとに今後どのように行動すべきか活かせるようになり、組織全体の活発化も見込めるでしょう。
社内のコミュニケーションが活発化する
360度評価の導入は、社内コミュニケーションの活発化が見込めます。
従来の評価方法では、管理者と対象者だけの内容確認となるため、コミュニケーションが不足し情報共有の漏れが懸念されます。
一方、360度評価は上司や同僚・部下など、評価を通じて複数の人とコミュニケーションを取れます。
例えば、上司からのフィードバックや同僚からの客観的な評価など、普段は話題にならない内容も話せるでしょう。
また、360度評価終了後に上司と面談の機会を設けて貰えば、より評価内容の理解が深まります。
コミュニケーションの活発化によって評価に納得もできるため、社内雰囲気の向上や生産性のアップなどが期待できるでしょう。
管理職の育成も期待できる
360度評価を導入すれば、管理職の育成も進められます。
360度評価は普段人を評価する立場にない社員でも、上司や同僚を客観視することができます。
改めて他社員の行動や実績を振り返ることで、良い点や改善点に気付けます。
また、一般社員の婆は管理者の立場として、他社員の行動を評価する機会は少ないでしょう。
360度評価を通じて管理者目線で人事評価を行えば、これまで上司がどのように人材を評価していたのか把握できます。
さらに、360度評価終了後に一般社員から上司や同僚に対して評価のフィードバックを行えば、管理者としての適正や素養を確認できます。
360度評価を通じて、管理職候補として育成すべき人材の把握もできるでしょう。
360度評価を導入する3つのデメリット
360度評価の導入はメリットだけではありません。
工数の長さや主観が加わる可能性があるなどのデメリットがあります。360度評価を導入するデメリットは、以下の通りです。
- 評価に至るまでの工数が多い
- 評価に主観が加わる可能性がある
- 評価を基準とした教育になりやすい
それぞれ順に解説します。
評価に至るまでの工数が多い
360度評価は従業員全体が人事評価を行うため、評価完了までの工数が多くなります。
従来の評価方法は、一部の管理者だけが業務の一環として対応していました。
しかし、360度評価は一般社員も人事評価業務を行うことになり、評価シート提出後の確認や集計など、これまでなかった負担が発生します。
評価を行う一般社員や評価の集計や確認作業を行う人事担当者には、大きな負担がかかる可能性が高いです。
360度評価によって担当者が取り組むべき業務に支障をきたしてしまうリスクもあります。
そのため、360度評価を導入する際は、長期的な評価スケジュールや専用ツールの活用など、担当者の負担を軽減する対策が重要です。
評価に主観が加わる可能性がある
360度評価は客観的な評価ができる手法ですが、一部主観が加わる可能性もあります。
360度評価は管理者以外の人事評価に慣れていない一般社員も参加するため、業務と無関係な感情や私的な人間関係が評価に影響するケースも少なくありません。
また、360度評価は同僚同士でも評価を実施するため、内容を気にした馴れ合いが生じるリスクがあります。
例えば、「あなたに対して高い評価を行うから、自分にも良い評価をつけて欲しい」など、評価の意味を成さない結果となる可能性も高いです。
これらのリスクを避けるには、360度評価の実施前に適切な評価方法や導入目的を十分周知しておく必要があるでしょう。
評価を基準とした教育になりやすい
360度評価を導入することで、評価を基準とした社内教育になりやすいです。
例えば、上司が部下からの評価を気にして、本来言いたいことも我慢してしまったり、指導すべき部分に対応しなかったりする可能性があります。
従来の評価方法であれば、評価を気にすることなく指導するべき部分に厳しい対応が可能でした。
360度評価では評価を気にした教育が行われた場合、組織全体のパフォーマンスが低下する恐れがあるでしょう。
そのため、360度評価を導入する際は、評価項目の限定や意図した内容が伝わるような指導が重要です。
360度評価を導入する際の注意点
360度評価を導入する際は、以下3つのポイントに注意しましょう。
- 評価対象を全ての社員とする
- 評価を報酬に紐付けない
- フィードバックを実施する
それぞれ順に解説します。
評価対象を全ての社員とする
360度評価を導入する際は、評価対象が全社員になるように設定しましょう。
360度評価を導入する目的の一つとして、公平で客観的な評価があります。
一部の管理者や役員を除いた評価では、360度評価における公平な人事評価とは言えません。
また、360度評価は社員全てを対象とするため、部署や役職に限らず対応が必要です。
会社に所属する社員全てを対象にすることで、公平で客観的な評価を実施できるでしょう。
評価を報酬に紐付けない
360度評価を導入する際は、評価内容を報酬に紐付けないよう注意が必要です。
従来の人事評価では、評価内容を昇給や賞与の額に反映させる企業も多いでしょう。
しかし、360度評価では、評価内容をそのまま報酬に反映させてしまうと、デメリットを発生させるリスクが高くなります。
例えば、評価に主観が加わったり評価を基準とした教育になったりする可能性が高く、360度評価の意図した目的と異なる人事評価が行われてしまうでしょう。
そのため、360度評価は働き方の公平な評価やモチベーションアップの材料として活用する必要があります。
報酬に直接反映する人事評価に関しては、一般社員には公開されない方法で管理者によって行いましょう。
フィードバックを実施する
360度評価を導入し、全体でチェックが完了した後は必ずフィードバックを実施しましょう。
360度評価は評価ギャップの把握やモチベーションアップを目的としているため、対象者に対して算出した評価内容を正しく伝えて、改善へ促すことが重要です。
また、360度評価の結果を元に上司と部下で面談を実施したり、チームで共有したりすることで、コミュニケーションの活性化を図れます。
360度評価によってPDCAサイクルを回して、より良い人材育成に繋げましょう。
360度評価の評価項目
360度評価の具体的な評価項目は、以下の通りです。
評価項目 | 評価内容 | 概要 |
---|---|---|
課題発見に関する項目 | ・現状把握力
・問題分析力 ・企画力 ・チャレンジ精神 |
・自身の置かれている立場や会社の状況を正しく認識できているか
・自身や顧客が抱えている問題を解決に導けているか ・新たなアイデアや企画を生み出せているか ・困難に対しても果敢に挑戦できているか |
課題遂行に関する評価項目 | ・判断力
・計画力 ・行動力 ・責任感 |
・今何をすべきか把握できるか
・目的を達成するべきために何が必要なのか ・自信を持って業務を遂行できるか |
人材活用に関する評価項目 | ・共感力
・人材育成能力 ・包容力 |
・他者を思いやることができるか
・チームをまとめたり、適切にフィードバックできるか ・トラブル発生時に部下にサポートできるか |
コミュニケーションに関する評価項目 | ・傾聴力
・意思疎通力 ・折衝力 ・協調性 |
・同僚や部下に対して耳を傾けているか
・自身の考えをわかりやすく相手に伝えられるか ・物事が対立した際は話し合いでの解決や妥協できるか ・他社員やチーム・部署とスムーズに連携が取れるか |
360度評価の代表的な項目は4つで、それぞれに内容が決められています。
さらに、管理職についている社員に関しては、仕事への責任感や思考能力・問題解決力などに特化した項目も追加されるケースが多いです。
360度評価を導入する手順
360度評価を導入する手順は、以下の通りです。
- 具体的なルールを定める
- 社内へ周知する
- 360度評価の実施
- 社員へフィードバックを行う
それぞれ順に解説します。
具体的なルールを定める
360度評価の導入が決定した際は、全社員へ周知する前に具体的なルールの設定を行います。
事前にルールや評価項目を設定しておくことで、スムーズな導入を実現可能です。
また、360度評価のルールを決定する際は、管理者や人事担当者を中心に導入目的を共有しましょう。
今後360度評価を導入して実施するにあたり、担当者が目的を理解しておかなければ、対応のモチベーションに影響がでます。
事前に360度評価の導入目的を明確化しておくことで、ルール設定もスムーズに進みます。
自社が360度評価を導入する目的に合わせて、ルール設定を進めましょう。
社内へ周知する
360度評価を導入する目的共有やルール設定が完了した後は、実際に評価対象となる社員へ周知しましょう。
周知する際は、360度評価を導入する目的を説明し、社員に理解してもらうことが重要です。
また、360度評価を導入する目的を社員に理解してもらうには、導入する目的以外にもメリットを説明すると効果的です。
360度評価はうまく機能すれば非常に高い効果を得られる評価手法ですが、評価完了までの工数が多く全社員に負担がかかります。
そのため、企業側のメリットだけではなく、社員に直接関係のあるメリットを伝えることで、納得した上で360度評価に参加してもらえるでしょう。
360度評価の実施
社員へ360度評価導入の周知が完了した後は、実際に評価を進めていきます。
一般的には360度評価の評価項目に則って作成した評価表を社員に記入してもらい、記入完了後に担当者にて回収を行います。
評価表の回収が完了した後は、人事担当者や部署ごとの管理者にて評価を集計します。
また、360度評価を実施する際は、評価表の回答期日を定めて、数回リマインドすることで効率的に集計が可能です。
360度評価は評価表の集計ができなければ意味がなく、スケジュールが長引きすぎると環境が変化してしまうため、期日通りに進めましょう。
社員へフィードバックを行う
360度評価が完了した後は、担当者や上司から社員へフィードバックを行います。
評価表のフィードバック形式は、企業によって異なります。対象者の評価だけを開示して上司からのフィードバックを行う形式や、上司と対象者のいずれも評価表を開示して共有するケースもあります。
また、企業の中には、一部の項目だけ評価の低い社員へ、別担当者から個別にフィードバックしたり、メンターによる相談窓口を設けたりする場合もあり、目的に合わせた設定が重要です。
評価表の数値は平均値だけを開示して、対象者の良い部分・改善点を伝えて、モチベーションアップへ繋げます。
評価の回答ではなく、フィードバックに時間を割くことで、より360度評価を活かせるでしょう。
360度評価を導入する際のポイント
360度評価を導入する際は、以下3つのポイントを把握しておきましょう。
- ルールや評価項目を明確化する
- フィードバック時は改善策も提示する
- 研修期間を設ける
それぞれ順に解説します。
ルールや評価項目を明確化する
360度評価を導入する際は、ルールや評価項目をあらかじめ明確化しておきましょう。
評価基準やルールが曖昧だと、対象者は混乱してしまい360度評価の効果を最大限発揮できません。
また、360度評価は会社全体で実施するため、従来の人事評価よりも時間と工数がかかります。
各社員が360度評価に納得し、迷うことなくスムーズに回答してもらうには、明確化されたルールや評価項目が必要です。
そのため、360度評価を導入する際は、社員へ周知する前にルールを明確化し、目標に合わせて評価項目を設定しましょう。
フィードバック時は改善策も提示する
360度評価を実施した後のフィードバックは、必ず改善策も提示しましょう。
フィードバック時は、評価表の内容を対象者にただ伝えるだけでは意味がありません。具体的な改善策を提示し、対象者がこの後何をすべきか提示する必要があります。
また、対象者がフィードバックの内容を理解できなければ、誤った方向へ進むリスクがあります。
そのため、改善策を提示する際は複数人で意見交換をしたり、上司と改善計画を立てたりすることで、具体的な行動をイメージさせられるでしょう。
研修期間を設ける
360度評価を実施する前は、研修期間を設けましょう。
360度評価を初めて導入する場合、一般社員だけではなく管理者も対応がわからなくなる恐れがあります。
正しく360度評価を実施するためにも、管理者だけの研修期間が必要です。
一度研修期間を設けることで、自社で360度評価を導入する際の改善点を把握できます。
万が一トラブルが発生しても、内情を把握している管理者が対応にあたることでスムーズに解決可能です。
360度評価|まとめ
以上、360度評価の概要や重要性が高まっている理由、導入するメリット・デメリットを解説しました。
360度評価は人事評価の主観性を無くしたり、納得できる評価が可能です。
従来の人事評価では、上司からの一方的な評価になりがちでした。
一方、360度評価は複数人で人事評価を行うため、より多角的に評価を進められます。
また、360度評価によって対象者が感じる評価のギャップを把握でき、社内のコミュニケーションの活発化や管理職の育成も期待できます。
ただし、360度評価は評価に至るまでの工数が多く、評価を基準とした教育になりやすいデメリットがあります。
そのため、360度評価を導入する際は事前にルールや評価項目を明確化し、研修期間を設けることが重要です。
フィードバック時は対象者に対して具体的な改善策や行動イメージを立てることで、より良い人材に育成できます。
360度評価は上司や一般社員に関わらず、公平で客観的な人材評価です。
納得感のある評価や社員のモチベーションアップを促すためにも、360度評価を導入してみてはいかがでしょうか。