上記の様なお悩みを持つ管理職や戦略担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
多様化するITの経営戦略において、M&Aは有効な解決法と言えます。
本記事では、IT業界におけるM&Aの動向や、メリット・デメリットについて徹底解説しています。
目次
IT業界におけるM&Aの動向
IT業界では、事業拡張や事業承継を目的とした企業間のM&A取引が急増しています。
これには、IT業界における様々な事情が関係しています。
- IT業界が急速に規模拡大中の数少ない業界である
- IT人材の不足が慢性的であり、人材確保の競争が激化している
- AIやクラウドサービスが普及し、事業環境の変化へ柔軟に対応する必要がある
- 上場を果たすスタートアップIT企業が急増している
- 80年代~2000年代に台頭したIT企業の経営者がM&Aによる事業承継(若返り)を検討している
- 工場や店舗などの主な有形資産を保有しない業界であるため、事業拡張を検討した際真っ先に「M&A」が思い浮かぶ
IT業界は、近年急速に成長を遂げている数少ない業界です。需要が急増しているにも関わらず、人材やインフラなどの供給は圧倒的に追いついていないのが現状です。
経済産業省の試算では、2023年時点で既に34万人のIT人材が不足していると推定されています。また、人材の供給も2019年でピークを迎えてしまっていると推定されているため、IT人材の不足にさらに拍車がかかっている状況となっています。
また、IT人材の不足が特に深刻な分野が、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、ブロックチェーン、IoT、AI(人工知能)、アジャイル開発などの先端技術を担う「先端分野」です。
経済産業省(みずほ情報総研)が2019年に発表した調査では、この「先端IT人材」の不足が顕著になると予測されています。
IT分野のM&A動向を注視するうえで特にポイントとなるのが、システム保守などを担う従来型のIT人材は2025年~2025年(中位の場合)に充足し、以降は急速に余っていくと推定されていることです。2029年には、従来型人材が10万人以上余る試算です。
一方で、AIやIoTなどを担う先端IT人材の不足は顕著です。2018年時点で既に2万人を超える先端IT人材が足りておらず、2030年には54万人の人材が不足すると推定されています。
M&Aには、事業の多角化や効率化などのメリットがあり、経営統合する企業が増えることで、必要とされるIT人材を削減することに成功します。M&Aは、単に売り手や買い手にとってメリットとなるだけでなく、IT業界全体にとっても人材不足解消の点で大きな効果を発揮します。
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IT業界におけるM&Aの特徴
IT業界におけるM&Aの特徴としては、以下の項目があげられます。
上記の特徴について、以下より解説します。
企業の技術力は人材に紐づいている
技術力の無い企業は、市場で優位性を発揮できず、思うように業績を向上させることができません。このため優れた人材の確保は、これからのIT企業にとって必要不可欠です。
しかしなから、IT業界においては、必要とされる人材の数が不足しており、特に企業の技術力と深くリンクする「先端IT人材」の不足は顕著な傾向です。
特にAI(人工知能)などの先端IT人材の確保を目的としたIT業界のM&A取引は、近年増加傾向にあります。
仮に、先端技術を有する企業の買収に成功すれば、自社での開発コストや時間を大幅に削減できるでしょう。
成約までのスピードが速い
AIや5Gなどの先端技術が次々と台頭する中、市場の変化に対応するため、IT企業には迅速な意思決定や技術の導入が求められています。また、一連のM&Aは、迅速な人材の確保にも有効です。
その時その時にフィットしたインフラや人材を確保するため、IT業界全体におけるM&Aの成約スピードは速くなっています。
特に、買収候補の選定からクロージングまでのプロセスは、スピーディーに行われる傾向があります。
IT業界でM&Aを実施するメリット
先端分野において、人手不足が深刻なIT業界においてM&Aを実施するメリットは以下の通りです。
ここからは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
新技術の獲得
新技術とは、AI(人工知能)やIoTなどの先端IT分野のことです。この他、以下の様な技術も新技術に該当します。
技術 | 概要 |
---|---|
クラウド技術 | オンラインでデータやアプリケーションを管理・配信する技術 |
AI(人工知能) | 機械学習やディープラーニングを活用して学習・推論を行う技術 |
量子コンピューティング | 量子ビットを利用して高速な問題解決を行う技術 |
ブロックチェーン | トランザクションの透明性とセキュリティを向上させる分散型台帳技術 |
IoT(モノのインターネット) | デバイスやセンサーをインターネットに接続し、リアルタイムのデータ収集と制御を実現する技術 |
AR(拡張現実)/VR(仮想現実) | 現実世界と仮想世界を組み合わせた体験を提供する技術 |
サイバーセキュリティ | データやネットワークを保護するための技術 |
通信インフラの整備や技術革新などに伴い、今後はこれらの先端分野に関する技術や人材の需要が急速に高まっていきます。
IT市場規模は、システム運用や保守・受託開発などを行う従来型のIT市場は4割ほどに縮小すると推定されています。一方で、AI(人工知能)やIoTなどの先端IT市場は6割ほどに増大すると推定されています。また、先端IT市場の規模は、2023年と比べて127%増えると予想されています。
急激に増加する先端IT市場に対応するため、多くの先端IT人材が必要になります。しかしながら、先端IT人材の数は従来型人材と比べて8分の1ほどしかなく、先端技術を要するIT人材は、2030年時点で50万人以上不足すると推定されています。
仮に先端ITを扱う人材が不足した場合、実行中のプロジェクトが遅延する・技術革新が遅れる・経済損失が発生するなどのダメージが生じます。
このため、新技術のノウハウを持つ企業買収を行い、先端ITを取り扱える人材を確保することで、業界内でアドバンテージを発揮し、確固たる地位を獲得できるようになります。また、経営戦略上より優位なアクションを起こすことも可能になります。
自社で教育や開発を行う手間を大幅にカットでき、人手不足の解消による業界への還元も可能となるため、大いに社会へ貢献できます。
なお世間では、大学などの教育機関において、データサイエンスなどの先端IT分野に関する教育の推進が推奨されています。今後の社会情勢を注視することも、併せて重要となります。
市場における競争力の向上
M&A取引を活用すれば、以下の様なメリットを得られ、最終的な市場における競争力は向上します。
- 事業を拡大し、新規市場へ進出できる
- 競合他社を排除できる
- 新技術や知識を獲得できる
- 業務の効率化やコスト削減を達成できる
- 企業のブランド価値を向上できる
M&A取引には、上記の様なさまざまなメリットがあります。
上記の様なメリットをM&Aによって享受した代表的企業としては、Facebookを運営するMeta社があげられます。
Facebook社(当時)は、2012年4月に10億ドル(810億円)でInstagramを買収しています。Instagramは当時スタートアップの企業でしたが、提供するアプリのユーザー数が爆発的な伸びを見せていました。
これに危機感を持ったFacebook社は競合相手を排除する目的でInstagram社を買収しています。買収を行った数年ほどで、Facebookの利用者数も爆発的な増加を見せており、一連の買収が要因として考えられています。
M&Aを行ったことで、ネット時代の最先端インフラを余すことなく活用する巧みな戦略が展開可能となり、爆発的に成長しました。
この他にもFacebook社はInstagram社以外にも20社以上をM&Aにより買収しており、多くの新技術獲得や業務効率化を達成しています。
事業の多様化とリスク分散
M&Aによる事業承継は、買収先の事業を引き継ぐ形となるため、目的に合わせて効率よく事業を拡張できます。
事業を多様化させることを事業の多角化と呼びますが、この多角化戦略には大きく分けて4つあります。
戦略名 | 概要 | 例 |
---|---|---|
水平型多角化戦略 | 既存の技術やチャネルを活用して、既存事業と関連性の高い分野で事業を広げる戦略 | バイクメーカー本田技研工業が自動車生産に参入 |
垂直型多角化戦略 | 新たな技術を獲得して、既存事業の川上または川下の領域に進出し、成長拡大を狙う戦略 | 食品小売成城石井が飲食事業に参入 |
集中型多角化戦略 | 既存事業とはあまり関連のない新しい市場に進出する戦略 | フィルムメーカー富士フイルムが化粧品市場に参入 |
集成型多角化戦略 | 既存事業とまったく異なる、新たな市場に参入する戦略 | ECモール楽天が金融、旅行、保険市場に参入 |
上記の様な事業拡張は、特定の市場や技術に依存するリスクを減らすことができます。加えて様々な方面での活躍が期待でき、安定した収益基盤の構築につなげられます。
また、異業種の企業を取り込むことで、新しいビジネスモデルの創出も期待できます。
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IT業界でM&Aを実施するデメリット
上述したようなメリットがある一方で、IT業界におけるM&A取引には、以下の様なデメリットもあります。
企業文化の統合が困難な可能性
異なる2つの企業が合併することで、想定外の軋轢や齟齬が生じ、価値観の衝突が発生するケースは少なからずあります。
特にIT業界におけるM&Aでの経営統合では、以下の様な点で衝突が起きやすくなっているため、注意が必要です。
- コーディング方式
- レガシーシステムの統合
- 人材配置
一つ目の問題が、コーディング方式です。
仕事を進めていく際、使用する言語が異なるケースがほとんどのため、経営統合前後に使用言語についての確認や協議を行う必要があります。
M&Aを成功させるのであれば、開発言語の実績に長けた企業を選定する必要があるといえるでしょう。
二つ目の問題は、レガシーシステムの統合です。
レガシーシステムとは、企業が長年にわたって使用してきた業務基盤のことであり、これらを即座に統合することは容易ではありません。
特に異なる職種間での経営統合の場合、新たにBIツールや統合運用管理ツールの導入を要する場合もあります。
三つ目の問題は、人材配置についてです。
相手方企業の人材特性について、以下の点に注意しながら選定を進めていくと良いでしょう。
- システム要件定義や設計まで行える優秀なSEがいるかどうか
- PM(プロジェクトマネージャー)やPL(プロジェクトリーダー)がどれくらいいるか
上記の問題は、信頼できるM&A仲介業者を選定し、適切なデューデリジェンスが実施することで解決可能です。
簿外債務や偶発債務のリスク
買収企業が抱えている簿外債務や偶発債務が買収後に発覚した場合、企業の財務状態を著しく悪化させ、買収後の大きな負担となるでしょう。
「簿外債務」は、企業が抱える貸借対照表には記載されていない債務のことです。例としては、以下の項目があげられます。
- 買掛金
- 未払いの残業代
- 賞与引当金
- 退職給付引当金
上記の簿外債務は、入念なデューデリジェンス(買収監査)に加え、「表明保証」を相手方企業へ義務付けることで、会社売却・M&A後の簿外債務発覚を防げます。
簿外債務の他に、「偶発債務」と呼ばれるものがあります。
偶発財務とは、現在は債務ではないが、将来一定の条件下で債務になる可能性があるものを指します。
債務の種類 | 概要 | 偶発債務としての扱い |
---|---|---|
手形割引・裏書譲渡 | 手形を裏書譲渡した場合、不渡りになった場合の支払義務 | 時価で評価して偶発債務として処理 |
債務保証 | 他者の債務の保証をした場合、保証人の返済義務 | 将来の返済可能性を考慮して偶発債務として扱う |
係争中の損害補償債務 | 訴訟中に損害賠償責任を負う場合の損失 | 結果が分かるまでは偶発債務として扱う |
デリバティブ | 金融派生商品で将来の損益の可能性がある | 将来の債務として該当し、偶発債務として扱う |
上記の様な偶発財務は、財務諸表への計上が不要です。一方で、これらと併せて提出する個別注記表にその旨を掲載する必要があります。
これらの項目の有無についても、デューデリジェンス時に確認しておきましょう。
経営資源の分散
M&Aを通じて企業が急速に拡大すると、経営資源の分散が起こりやすくなります。
経営資源が分散すると経営プロセスが複雑化し、時間やお金などの不必要なコストが発生する可能性があります。
また、異なる業務の統合においても、多くの時間やコストを要します。
本来の事業へ避けるリソースが低下しないよう、また企業全体の効率低下を招かないよう、M&Aを実施する前に以下の項目と照らし合わせながら、適切にシナジー効果を予測することが重要です。
- 顧客やサービスなどの経営資源をグループ全体で活用できるか
- 共通する軸で事業ポートフォリオが整備されているか
シナジー効果の予測後は、経営資源の適切な配分を予測することが求められます。
一連のデューデリジェンスが適切に行われるよう、信頼できるM&A仲介機関の利用が推奨されます。
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IT業界でM&A仲介業者を選ぶポイント
M&A取引を実施する際は、法律・財務などさまざまな専門知識を要するため、仲介業者を介することが一般的です。
IT業界におけるM&Aで仲介業者を適切に選ぶポイントは、以下の2点です。
以下より、M&A仲介業者の選び方のコツについて解説します。
IT業界の知識・経験
M&Aは、中長期的な経営戦略上、要となる取引です。知識と経験の有無に関して、以下のポイントを押さえている業者を選定するようにしましょう。
- ITに関する技術面の知識が豊富である
- 市場の動向や法規制の変化にも精通している
- IT業界のM&A案件を多数成功させている
- 公式サイトの情報や口コミ内容が正確である
IT業界のM&A仲介経験が豊富かどうかは、M&Aの実行にとって重要な要素となります。
仮にIT業界の実績のない業者を選定してしまうと、デューデリジェンスや合意の段階で適切な施策が実行されないため、注意が必要です。
仲介業者や担当アドバイザーがIT業界における豊富な知識と経験を有しているかどうかが重要なポイントとなります。
報酬体系
M&A取引を検討する際は、報酬体系について事前にチェックしておくことが重要です。
具体的な費用の種類としては、それぞれ以下の項目で発生します。
費用の種類 | 発生段階 | 発生金額 |
---|---|---|
相談料 | 初回相談時 | ほとんどの場合は無料 |
着手金 | 正式依頼を行った直後 | 無料 or 100~200万円程度 |
中間金 | 基本合意書の締結時 | 0~100万円(または成功報酬費用の10%~20%程度) |
デューデリジェンス費用 | デューデリジェンス(買収監査時) | 200万円程度 |
成功報酬費用 | 最終契約締結後 | M&A金額の5%程度 |
リテイナーフィー | 契約時(毎月) | 月額50万円程度 |
M&A取引に関する相談料については、ほとんどの業者で無料となっています。ただし、正式な依頼を行った後には、100~200万円程度の着手金がかかることがある点に注意が必要です。
中間金は、M&Aのプロセスがある程度進行した時に支払う費用です。一般的には、基本合意書の締結時に支払われます。相手企業に対するデューデリジェンス(買収監査)には200万円程度の費用が掛かります。
この他にも、表明保証などのオプションに料金が発生しないか、事前に担当者の方へ問い合わせを行っておきましょう。
M&A取引の成功報酬費用としては、M&A全体金額の5%程度で見積もっておくと良いでしょう。
なお、組織の規模に応じては、一定の報酬率が乗算される「レーマン方式」が用いられることもあります。
レーマン方式は、以下の規模の企業において算出される評価法となります。
報酬基準額 | 料率 |
---|---|
5億円以下 | 5% |
5億円超 〜 10億円以下 | 4% |
10億円超 〜 50億円以下 | 3% |
50億円超 〜 100億円以下 | 2% |
100億円超 | 1% |
また上記費用とは別に、リテイナーフィー(月額固定料)の形で、調査や書類作成などで月額費用が発生することもあります。
IT業界でM&Aを実施して市場競争力を高めよう
ここまで、IT業界のM&A取引動向や、IT業界でM&Aを行うメリット・デメリットについて解説しました。
新市場の形成が着々と進むIT業界では、経営戦略の手段としてM&Aを検討する企業が増えています。
本記事でご紹介した内容を参考に、有意義なM&A仲介業者の選定を進めてくださいね。
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